ボランティア・プロジェクト:タイ国立フィルム・アーカイブにて
2005-11-10 | filmpres | trackbackおわりに
何らかのプロジェクトを推進している組織にとって、組織の安定した運営と成長、そしてプロジェクトに対する社会の認識を高めることは重要です。タイ国立フィルムアーカイブ(TFA)はそのことを改めて教えてくれます。広報・宣伝活動なくしてプロジェクトは成立しません。思うに、最大の問題が潜むのは政治的なことの中、つまりTFA自身の決定権の欠如であり、そのために本来あるべき組織構築や必要な機材の購入がうまくいかないのです。例えば、所蔵品へのアクセスを確保すると同時にオリジナル素材を守り抜くのがフィルムアーカイブの役目です。したがって、フィルムから他メディアへの変換・複製作業は欠かせません。TFAにはテレシネ用の編集台が1台あるので、ほとんどの所蔵品はビデオに変換されています。ストック・フッテージの顧客であるTV局が必要としていたのは、以前はベータ・テープでした。ところがそのための予算を組むのに15年もの歳月が費やされたのです。ようやく許可が下りたとき、すでにベータはフォーマットとして時代遅れになっていて、新たな機材を購入し直す必要に迫られる、という悪循環に陥りました。
一ボランティアが政治状況にまで口を挟むべきではないでしょう。ボランティア活動の意義は、意見交換をしてスタッフのモチベーションを高め、そこにいることの意義を再確認してもらうことにあります。独立に向けて様々な困難に立ち向かうTFAには精神的な支えが必要です。現在TFAの存在自体を脅かすような決定が次々と下されている中で、TFAを訪れ取材することで、あるいはボランティア活動を申し出ることで、国際社会が手を差し伸べることは可能です。しかしここでいうボランティアとは、TFAにとっての急務を現地で遂行できる人材を指します。つまり、それなりの技能を擁するボランティアが求められている、ということです。仮に筆者が現像所の技術者、つまりその分野の専門家であれば、たとえタイ語が話せなくてもNFAの現像場の技術者と協力して働くことができたはずです。
作業の流れの中で、あるいは組織的な問題に直面したり解決策を提案していく中で、筆者が直面したもう一つの問題点は、保存活動の管理・運営方法です。ときに外部の者の視点は、問題解決に向けた有効な手段を提示してくれるものです。そういった意味で、リスク・アセスメントが有効なのではないかと考えはじめています。この点にもう少し踏み込んで、これからTFAのスタッフと話し合っていくつもりです。
予想していたこととはいえ、最大の問題は言葉の壁でした。知識や経験を与えたり交換したりということを目指しているだけに、あらゆる場面でコミュニケーション不足を痛感しました。この点も次回は改善せねばと思っています。お互いが慣れてくれば共通の言葉を持たずともわかり合えるようにはなるものです。文化的な差異もあり、何か失礼があってはならないという思いから過度に慎重になってしまうこともありました。そうなると筆者はアーカイブの日常に溶け込んでいるというより、むしろ少し距離をおいて彼らを観察しているという立場に置かれてしまいます。2ヶ月の滞在の間にかなり親密にはなりましたが、まだ十分ではないと感じています。
あらゆる種類のボランティア活動に共通することかもしれませんが、実際に活動をはじめる前に明確で理路整然とした達成目標を掲げるというのは、容易なことではありません。TFAは政府組織の傘下にある小さな組織ですが、現在、大掛かりな挑戦をしようとしています。まずはTFAという組織が掲げる目標の達成に向けて何がなされるべきか、また何を避けるべきかを考えねばなりません。大切なのはボランティアの力が必要とされている領域で、その力を最大限に活かすことなのですが、このTFAという組織が真に求めているものを理解するには、あと少し時間がかかりそうです。筆者にわかる範囲で以下に3点、現在のTFAに必要なことをあげて、この報告を終えます。
- 国際的なサポート
- フィルムを扱うことができるスタッフ(既にはじまっているボランティア活動に加えて、ニューヨーク大学とジョージ・イーストマン・ハウスが実行しているようなインターンシップ制度の導入)
- スタッフの採用権を含む自己決定権の獲得と、国立アーカイヴ美術部門からの独立
謝辞
このプロジェクトは、レイ・エドモンドソン、パオロ・ケルキ・ウザイ、チャリダー・ウアバムルンジット、ドーム・スックウォンの協力によって実現しました。また FIAF(国際フィルムアーカイブ連盟)と SEAPAVAA からの資金提供に深く感謝いたします。
