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映画フィルムの現像職人・今田長一

2003/11/4 | admin | trackback

2.映画館で学んだこと

もう一度、映画館の話にもどりますけれど、当時どういった映画をご覧になっていたのですか。

若い頃、一番魅了されたのはディズニーの「ファンタジア」ね。あのコマ使い。コマ割りの仕方とかどうなってるんだろうと思ってね。何回みたかなあ、随分みましたね。あの頃は入替制がなかったから1日中映画館にいたね。しずくが落ちてくるところなんか本物以上に自然で、どうやってやるのかなあ、なんて思って何度もみたけれどわからなかった。技術的にはもっとも学ぶべきことが多かった作品ですね。今でもそう思います。日本映画はそれほど強く感じたものはないなあ。全然ないね。

洋画が技術的に先をいっていたからでしょうか。

それもあるけど、あの頃はセットにしても何にしても洋画はスケールが大きかったからね。大画面でみても日本映画は小さくみえるじゃない。物語でいえば印象に残っているのは「麦秋」とかかな。笠智衆が好きだったから小津安二郎の映画はみてましたね。あとは数年前に東映の映画をみて、題名は忘れちゃったけど、技術が随分進んだんだなあなんて思いましたけどね。それくらいかな。

映画館でも映画を仕事の目でみてしまうことはありませんか。

粗ばっかりみえちゃうよね。本当は3回くらいみるといいかなと思います。まあ、最近はそういう見方をしないようにしてますけどね。娯楽は娯楽としてみるべきだと思っているから、詮索はしません。けど若い頃、30から40代くらいのことは粗ばっかりひろっていました。変に勘ぐってみたりね。

ところで、今田さんのお弟子さんというか、今田さんの指導のもとで働いている若いスタッフの方はいらっしゃるのですか。

そんなに多くはいないですけど、映写がちゃんとできる人たちで、こういう現像所の仕事も学んでみたいっていう人が数人います。1日中ぴったりついて歩いてもらって教えることもあります。そうしないとわからないんですよね。

うちの場合は大手みたいに分業じゃないから、色んな仕事を一人でやらないといけない。すべての仕事を短時間でおぼえるには、ぴったりくっついてもらうしかないんです。人様のフィルムを預かっていますから失敗は許されないですよね。ですから昔ながらの考え方で徹底的に教えこもうと思っています。機械に関しては、何か途中で問題が起きたときにどうやってフィルムを助けるか、メンテはどうするのか、ということ。それと一番難しいのは補修ですね。目(※フィルムの脇に一定間隔であけられてる穴のことで、パーフォレーションともいう)の壊れたもの、とくに古いものなんかはやっかいなんじゃないですか。どうやって機械通るようにするかってことが一番問題。その手作業には時間がかかるんでね。ものによって、本当にボロボロのフィルムは1フィートだって(補修に)何時間もかかりますでしょ。それに若い人たちが耐えられるかどうか。僕でも1時間ずっと続けてやっていたら嫌になってくる。そういう意味では他にも色んな仕事があるのは気が紛れていいですね。大手の現像所みたいに、1日中暗いところで現像とか、私はあれは耐えられない。うちは色んな仕事ができるので、いいですね。

3.フィルム復元へ

お仕事の中で「復元」ということが出てきたのはいつ頃からですか。

はじまりとしては昭和天皇の皇太子時代の渡欧をおさめたフィルムの不燃化ですね(※1992年「FC89発掘された映画たち小宮登美次郎コレクション」P121宮本勝博氏による技術レポートに詳しい)。ステップ・プリンターをつかって一枚一枚手動で送ってね。眠くて眠くて大変だったですよ。それ以前にも古いフィルムが入ってくることはないわけではなかったけど、あれが一番印象が強いです。新しいものだけじゃなくて古いものも「なんとかしよう」っていう気持ちは、その当時からありました。あと、ここにもってくればなんとかなるっていうのは、あったみたいね。「ややこしいのは育映社にもっていけばなんとかしてくれる」ってね。

それは今でも変わらず続いていますね。そういった、どうにもならないような古いフィルムを仕上げるのに、なかなか納期までの時間が十分ではないということはありませんか。

どうしてもはやく見たいっていう人が多いんです。それが僕らの一番辛いところだなあと思います。最初は「時間はいいです」っていっても結局は「まだですか?」って催促されたりする。そうすると妥協とまでは言わなくても、とにかく仕上げなきゃいけないから、もっと研究したりテストしたりしたくてもね、続けられないでしょう。でもうちにくるフィルムは、その時点ですでに時間がないことが多いんだから、仕方ないですよね。1日でもはやく、っていうのは。そうしなきゃいけないんだと思います。そうして次に進んでくしかないからね。

あと、特に難しいのはカラーですね。カラーは、その人の好みもあるし映写条件によっても見え方は変わるから、大変ですよ。今でも一番難しい仕事は昔の白黒の染色版ね。あれはオリジナルとまったく同じ色にするなんて無理なんですよ。限りなく近づけることはできてもね。苦労して一生懸命近づけても、みる人によっては全然ダメだという人もいるだろうし。他に、例えば初期のカラーだとバランスが悪かったりするから、それを補正したほうがいいのか、あるいはありのままの色でいいのか、とかね。依頼主との間のコミュニケーション不足だったなと思うこともあります。じっくり研究するような時間があればいいのですけれど。ただ、モノクロだったらうちはいい色出しますから、俄然自信があります。

他の現像所から仕事の依頼を受けることもありますか。

ありますね。それは本当に状態の酷いものばかりだけれど。例えば10巻もののうち、特に状態の酷い部分だけがうちに持ち込まれたりする。全部じゃなくて。それは大した儲けにもならないし、何の手柄にもならないことだけど、でもうちがやらないと、もうどこでもできないってわかっている以上はね。後で依頼元の現像所の人に会ったときに「今田さん、あれどうやってやったの?」なんて聞かれるから「こうですよ」って答えると、「そんなの無理だ。うちではどうやっても(機械に)通らなかったのに」ってね。「そんな簡単にできたら僕困っちゃうよ」って笑ってるんだけどさ。だってそれを通すのがうちの技術なんだから。

フィルムでの復元はビデオに較べたらケタ違いにお金がかかるし、修復なんて、一般の人にとっては普通なかなかできることじゃない。ましてや状態のすごく悪いものだと、依頼主も、そんなにお金がかかるなら復元しない、となってしまうでしょう。せっかく救うことのできるフィルムなのに、それではしのびないじゃないですか。なんとか助けてあげないと。先代の社長も「今回に限りギリギリの予算でやってみようよ」って引き受けたりね。結局「今回に限り」が何度も続いているんだけどさ。

でもこれからは外国に持っていったり、それでデジタル化とかね。フィルムの持っている味はどうなんだろうなあと思ってみてますけど。

デジタル復元に関しては、未だ実験段階のようなものですし、海外のラボの作業でも、今田さんのような方が仕上りをどう見極めていらっしゃるのかは興味のあるところですが……

本当のシャシンの持っている良さを出すのに、デジタルのお世話になるってことは、どうしたって無理なんだね。写真の粒子っていうのは、やっぱり違うから。フィルムを映写しているのに、濃淡に深みがなくて、ビデオみてるのとかわらない。立体感がなくて、画面が完全にぴたっと固定されちゃっているものね。これなら画面がガタガタ揺れてるくらいがまだいいねえ、って思ってしまいます。でもね、どうせそこまでやるなら、キズを消してほしいとは思いますけどね。キズを消すってことはフィルムからフィルムへの複製ではとても難しいですし、それがきれいになるなら、いいですよね。僕はビデオやDVDでキズのないきれいな映像をみて、フィルムはキズのあるままとっておけばいいと思いますね。テレシネのときにキズを消すことだってできるんですから、みるのはビデオでいいんじゃないかと思いますけど。デジタルで復元した後にまたフィルムにおこす必要があるなら、僕だったら茶色がかった黒じゃなくて、青味がかった黒にしますね。そこの部分の技術はまた別の問題ですから、フィルムの仕上がりが悪かったらどうしようもないです。でも善し悪しは復元する人、つまりお金を出す人が決めることだから、僕は何か言えるような立場ではないです。ただ、何年かしたら必ず不満が出てくるんじゃないですかね。写真本来の良さがきっとわかってきますよ。僕はそう思います。今また8ミリの人気が出たり、若い人が8ミリを面白がったり、CMなんかも8ミリで撮ってからビデオにおこしたほうが、どういうわけか立体感が出るとかね、そういうことを言い出してるくらいだから。

逆にビデオの画質しか知らない若い人にはフィルムが新鮮にうつるかもしれませんね。

「オッ」と思うんじゃないの。同じものを撮ってくらべてみればもっとよくわかるんだろうけど、でも人間の記憶力ってすごいですからね。なんとなく、のっぺりして、やだなあっていうか、面白くねえなあ、って気になっちゃう。テレビでも全然違いますね。例えば「水戸黄門」なんかみていると、前はフィルム制作だったのを今はビデオ制作でやってるでしょう。安っぽくて、すぐわかりますよね。何か工夫できないのかなと思うけどね。ただ、どう違うのかちゃんと説明するのは難しいね。

まったく気にしない人もいますよね。むしろビデオ撮りの画のほうがきれいだって言う人も……

いるいる。ていうか、気にしない人の方がむしろ絶対的に多いんじゃないですか。それは当然ですよ。キズも埃もなくて、こりゃいいや、なんてね。

最後に、近頃は復元の仕事には何か取り組まれていますか。また、新しいアイディアはおありですか。

最近はあまり古いフィルムは扱ってないですね。それより8ミリが中心です。まあ、8ミリ人気もいつまで続くのかはわからないですけどね。復元については随分研究していますし、さらに良いものができるよう常に準備はしていますよ。それはもう日常的なことですね。もっと別のやり方があるんじゃないか、何か工夫できるんじゃないかって、いつも考えてます。これまで様々なケースをみてきたから、だんだんわかってきたことも多いし、機械も整備した。次やるならこうしよう、もっと良い結果を出そうと思ってね。まあ、何かアイディアがあっても大手みたいに膨大な資金を投入するわけにはいかないから、悔しいなあと思うこともありますが、これまでの経験の中から、常に最善の方法を尽くすということだけはね、心掛けていますよ。

本日はお忙しいところをありがとうございました。

こんな話でいいなら、またいつでもどうぞ。私にわかることであれば、何でもお答えしますよ。

(2003年10月20日、育映社にて 聞き手:石原香絵)

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