[復元報告]第四回映画の里親 霧隠才蔵[パテベビー版]の復元
2007/11/22 | filmpres | trackback2007年初夏にお預かりしたフィルムを《映画の里親》第4回作品として同年の秋にかけて復元しました。以下にご報告します。
オリジナル素材:
旧劇 霧隠才蔵
9.5mm パテベビー 約23m(70ft.)トップ欠落。エンドマークあり。黒いボビン(20m用大缶)側面に貼られた白ラベルに手書きで「旧劇 霧隠才蔵」とある。映画検閲時報(内務省警保局編)によると、伴野商店が1930年12月に家庭用パテベビー版「霧隠才蔵」を制作しており、1931〜37年の販売目録(パテーシネ掲載)にもその商品名が残る。
持ち主:
坂本頼光ネットオークションにて¥5,000-で落札したフィルムをFPSに貸与。
里親:
ソウル・チュンムロ国際映画祭
The Chungmuro International Film Festival in Seoul (CHIFFS)
http://www.chiffs.kr/(カタカナ表記を中黒でつなぐ)日本語表記はCHIFFS側の提案による。
復元版:
霧隠才蔵[パテベビー版]35mm 上映時間約3分 16fps使用ラボ:
IMAGICAウェスト
http://www.imagicawest.com/
東京光音
http://www.koon.co.jp/復元総費用:
約31万円35mm初号試写:
2007.10.22 10:00am-(於 渋谷某所)第5回映画の里親作品の発表/テレシネ版の上映を兼ねる。
お披露目上映(但しデジベータによる):
2007.10.30 第1回CHIFFS 中央シネマ1 11:00amより
出演 活弁・坂本頼光 伴奏・柳下美恵
はじめに
2007年秋、第1回ソウル・チュンムロ国際映画祭(CHIFFS)が華々しく幕を開けました。ディレクターをつとめるのは映画史家、映画作家、大学教授と様々な顔を持つキム・ホンジュン(Kim Hong-joon)さんです。
出会いは2003年夏のプチョン・ファンタスティック映画祭(PiFan)に遡ります。韓国映像資料院の映像アーキヴィストで親友のソンチ・オーに「私の先生」と紹介され、以来、ソンチと共に来日される度にお会いするチャンスを得ました。常に新しいアイディアに溢れている方なのですが、FIAF東京会議の会期中にCHIFFS開幕についてはじめてお伺いしたときには、さすがに驚きました。なにしろテーマはフィルムの発見や復元だとおっしゃるのです。映画祭の増え過ぎた韓国で、これまでにないテーマに挑戦したい、自ら映画人としてのキャリアをスタートしたチュンムロ(忠武路)を舞台に、映画の過去にスポットを当ててみたいとのこと。そのような映画祭の出現はアジア初に違いありません。FPSの活動趣旨にぴったり添う映画祭ですから、その記念すべき第一回に何かできないものかと考えていたところ、絶妙なタイミングでちょっと面白そうなパテベビーが転がり込んできました。黒いボビンに墨書きで「旧劇 霧隠才蔵」と書かれています。入手のいきさつについてはこちらをご参照ください。
キム・ホンジュンさんよりCHIFFSへの正式なご招待を受けたのはまさにそのときで、カンヌ映画祭での記者発表を終えて5月に再来日された際、にわかに都内で打ち合わせとなりました。通訳を引き受けてくださった日本女子大学のキム・ヨンジョンさんの助けもあって、この入手したばかりのパテベビーのボビンをその場で「先生」にお見せしました。そして清水の舞台から飛び降りるような気持ちで「このフィルムをCHIFFSの資金で救っていただけないでしょうか?」とお願いすると、拍子抜けするほどあっさり「OK」という言葉が返ってきたのです。こうして、新たな復元プロジェクトが動き出しました。
Stage One
協約書 Letter of Agreement
《映画の里親》第4回を手掛けるにあたって、過去3回の反省を踏まえ、《映画の里親》制度の定義を改めました。詳しくはこちらをご参照ください。この定義に則って作成した英文の協約書にキム・ホンジュンさんと小会理事長の永野武雄が署名しました。この協約書の日本語版は第5回以降にも準用するものです。
復元方法
ご存知のように映画の〈復元〉とは、その作品が初めて公開されたときの状態にできる限り近づけること、つまり小会が扱う小型映画(劇映画)の場合はオリジナルの形状である35mmに焼き直すことを意味します。第1回、第2回は共に16mm松竹グラフ版から→デュープネガを作成し→35mmプリントを焼くというブローアップ復元でした(第1回のみウェット焼きを使用)。しかしパテベビーの場合はオリジナルをスキャニングして→デジタル修復を施し→35mmにレコーディングする方法が現在では奔流です。
《映画の里親》は一般の映画ファンに復元を身近に感じてほしいがゆえの制度ですから、1本にかかる復元資金をいたずらに大きくするわけにはいきません。デジタル復元は話題性こそ期待できるものの、その費用は5〜10倍にまで跳ね上がりますし、果たして仕上がりにそこまでの違いがあらわれるかどうかも確信が持てません。今回は限られた条件の中で最善の成果を出すことをゲームのように楽しみながら、従来のブローアップ復元に臨むことにしました。
ラボの決定
それにしても迂闊でした。デジタル復元をしないと決めた矢先に、国内のラボには発注できないことに気づいたのです。育映社の現像場が閉じると同時に現像職人・今田長一さんが開発した機械を引き取ったIMAGICAウェスト(大阪)によると、稼働までにはまだしばらく時間がかかるということでした。一度は顔面蒼白になりましたが、すぐに頭を海外へと切り替えました。
ホームムービーの日 Home Movie Dayのオフィシャル・メーリングリストには、日常的に小型映画を扱う映像アーキヴィストが多く参加しています。このMLから、米国ニュージャージー州のBBオプティクスまたは英国ロンドンのプレステック・フィルムがパテベビーの復元において信頼に足る実績を残していると教わりました。フランス(CineDia)を推す声もありましたが、仏語のみの対応のため候補から外しました。ちなみに復元ラボとして有名なオランダのハーゲフィルムに尋ねたところ、ハーゲの設備では16mmを介さないと35mmへのブローアップができないそうです。デジタル復元のコストも下がっている中で「今どきオプチカルなどおすすめしない」と、ある意味真っ当なアドバイスを頂きました。
低コスト高クオリティーとはいえ、いざ目の前のオリジナル素材を送り出すとき、言葉の問題以上に海外ラボを使用する不安は大きく、そう簡単に決断できるものではないことが今回身に染みてわかりました。なにしろこれが現存する唯一の素材かもしれず、かつ復元完了時には持ち主に(当然、お預かりしたときと同じ状態で)お返しするものです。ぐずぐずと迷っているうちにIMAGICAウェストから連絡が入り、7月に今田さんの機械のテストがはじまることを知らされました。
IMAGICAウェストに発注したことで、結論からいうと予想以上の素晴らしい仕上がりが得られました。ただ国内とはいえ東京から大阪は遠く、テストフィルムの確認や初号試写の実施は容易ではありませんでした。第1回の「モダン怪談100,000,000円[松竹グラフ版]」の試写とウェット焼きのテストフィルムの確認のため、バイト帰りに江古田の育映社に駆け付けた日のことが思い出されます。今更ながら気づかされることには、小会のような草の根団体にとって、その現像場の存在はあまりに大きいものでした。
