映画保存はじめて物語
2007/3/2 | admin | trackback4.どんな映画を保存するの?
F:だって今まで作られた劇映画だけでも、数えたら大変な数でしょう。1つの作品につき何巻もあって、それがダーッと積まれていたら、もう大変なことになりませんか?
P:しかも、映画は劇映画だけじゃないですからね。
F:そういえば、最近テレビを見ていると、よくニュースなんかに戦災時の町の様子とか、政治家や実業家の姿とか、昔の映像がよく引用されますよね。.
P:ニュース映画は各新聞社がこぞって作っていたし、企業のイメージアップのための産業映画や、学校で見る教材映画、科学映画や民俗学映画など、劇映画以外にもいろいろな映画がありますよね。
F:それがあんな風にテレビのニュースの中に交じっていると、当時の状況や人物像がとてもわかりやすいし、その作品全体を見てみたいな、という気にもなります。
P:そういう映画は劇映画とはまた違った意味で、何年か経ってから見てみると、懐かしかったり、新たな出会いがあったりで、おもしろいですよね。
F:何より動いている姿で昔の人を見られるというのに感動しました。これもちゃんと映像が保存されていればこそですよね。
P:確かに。でも劇場で公開される長編映画以外のものは、上映される機会も少ないし、なかなか注目されてこなかったんですよ。だからなおさら保存するのも難しい。
F: うん、なんか想像できます。
P:劇映画なら映画会社がお金をかけて修復や保存をすることができます。特に名作であればプロジェクトには余計熱が入りますし、修復したものをDVDにしたりテレビ放映したりすれば、投資したお金も充分戻ってくるわけです。
F:ちゃんとビジネスになるんですね。
P:でも、そうではない映画は、修復や保存に費用をかけてくれるスポンサーもなく、公開してもお金を回収できるわけではない、製作した会社も存在しなくなると著作権もはっきりしない。そうなってくるとますます保存が後回しになってしまいます。こういうフィルムを「孤児フィルム(Orphan Film)」って呼んでいます。
F:なんか寂しい名前…。そういう孤児フィルムを保存するには、例えば科学映画なら科学の専門の大学や博物館が乗り出してくれるといいですね。
P:地域の映画だったら自治体とかね。その中には地域の人が撮ったホームムービーも入れて、町ぐるみで参加するとか。
5.ホームムービーは個人的な映画じゃない?
F:ホームムービーですか!?えーっ、何か抵抗あるなあ。
P:そうですか?
F:だって、ニュース映画や産業映画はちゃんとプロの人が作ったものでしょう。だから安心して見られるし、一般性もありますよね。学術に関する映画なら、その分野に現在関わっている人には貴重な資料にもなる。でもホームムービーって自分の家族とか旅行した時の様子とか、本当に個人的なものじゃないですか。撮った本人とその家族や友達は楽しいかもしれないけど、それ以外の人はどうかなあ。
P:そんなことないですよ。確かに撮影されたときは家族のため、友達のためだったかもしれないけど、やっぱり何年も経ってみれば、そこに写っている情景は、実は多くの人に共通のものだったりするじゃないですか。だから懐かしいのはもちろんですが、さらに当時の社会や風俗を伝える重要な証言になりますよ。
F:うーん…。
P:ホームムービーは身近なことを本当に身近な視点で撮影しているので、普通の映画に出てこないようなものが映り込んでいて、それがとても魅力になるんです。例えば自分の子どもが近くの公園で遊んでいる様子をとらえたホームムービーがあるとします。そのなかには公園の様子、町並み、服装、髪型、友達との関係、遊び方や遊具などなど、いろんなものが写っていますよね。
F:そうか。お年寄りから昔の話を聞いてもいまいちピンと来ないけれど、動く映像で昔の様子を見られたら、雰囲気が直接わかりますよね。地域にとっては、文書と同じように映画も歴史的な財産になるんだ。
P:それに撮影している方もただ撮っているだけじゃなくて、カメラを動かしたり、字幕やタイトルを入れたり、凝った画面を作ったり、編集したり、いろんなことをします。後から見ると、そういうところから、その方の美意識、ひいては当時のホームムービーを作る時の文法のようなものが見えてきて、映画史の中でもとても興味深いと思うんです。
F:おお、すごくおもしろそうな感じがしてきました。
P:うれしいなあ。
F:でも、ホームムービーってちゃんと保管してあるんでしょうか?そういうのは、結構すぐに捨てられてしまいそうな気がしますよね。
P:たとえ捨てなくても、長い間押入れの奥にしまいっぱなしだったりすると、かなりフィルムが悪くなって、もう見られない可能性もあります。
F:そうなると残念ですね。
P:だからフィルムを文化や歴史の遺産として捉えてちゃんと保存できるような仕組みが必要なんですね。
関連ページ ホームムービーの日
6.どうやって保存するの?
F:で、さっきの場所の話に戻るんですけど、どこに、どういうふうに保存するのが一番いいんですか?
P:フィルムの状態やベースの素材によって違うんですが、低温度・低湿度が基本です。
F:逆の場所に置いておくとどうなるんですか?
P:カビが生えたり、フィルムが縮んだり歪んだり変な匂い(S1)がして来たり、カラー作品だと褪色したり・・・
F:うわあ、何だか生き物みたい。じゃあ、梅雨の季節や夏はかなり辛いんですね?
P:そうなりますね。家の中でも湿気の多い押入れや直射日光の当る場所に保存してあると劣化が進みます。
F:一度悪くなったフィルムは、もう元には戻らないんですか?
P:悲しいけどそうですね。でも進行を遅らせることはできます。そのためにもフィルムを保存するアーカイヴには、フィルムの状態をきちっと把握できる専門の職員と、低温度と低湿度がキープできる保存庫が必要です。
F:映画保存のプロかぁ。ずっと映画が好きで見てきたけど、フィルムの状態のことや保管の方法まで、深く考えたことなかったなあ。
P:確かに映画館で映画を見ているときは、そこまで考えることないですもんね。
F:うーん、でも、僕が自分でできることってありますかね?だって映写機も触ったことないし、現像やフィルムの扱い方も全然わからないですよ。
P:確かに専門的なことになると複雑で難しいこともありますが、全く手が届かない、ということはないですよ。
F:例えばどんなことですか?
P:映写機を触ってみたいなら、各自治体が定期的に開催している16ミリ映写機講習会(S2)というのがあります。2日間ぐらいで16ミリ映写機の操作の仕方を学んで、修了書がもらえると、自治体の図書館や公民館が持つ16ミリフィルムを借りて上映することができるんですよ。
F:へえーっ、そういうのがあるんですか。
P:昔の視聴覚教育で使った映画や、郷土の紹介映画もその中にあるかもしれないですよ。
F:なるほど、それはおもしろそう。捨てられないように活用できたらいいですね。
P:あとは、家でフィルムを保存してみるとか…。
F:家で!?
関連ページ 16ミリ映写機講習会に行こう
メモ
S1:フィルムのベースは1950年代から可燃性のあるナイトレートから、燃えにくいアセテートに切り替わりました。しかしアセテートフィルムは強い酸っぱいにおいを放ちながら、ナイトレートよりも速く劣化していくことが発覚しました。この現象を酸っぱいにおいにちなんで<ビネガー・シンドローム>と言います。現在ポジフィルムにはアセテートに代わってポリエステル素材が使われています。
S2:体験レポートは「16ミリ映写機講習会に行こう」をご覧下さい。フィルムや映写機の利用者減少により、この制度を行わない自治体が増えてきています。参加するなら今しかない!
