増幅する『メトロポリス』に関するノート
2006/9/7 | admin | trackback2001年の復元
私たちが1998年から取りかかっている『メトロポリス』の新版は、ミュンヘンのヴァージョンと同じ線に沿って考案されている。ただし、綿密なヴァージョン間の比較の結果、私たちは可能な限りは現存するパラマウント・アメリカ配給版のオリジナルネガを使用することに決定した。そのため、編集と中間字幕の位置を多少変更する必要が生じた。補足用のショットについては、可能な限り現存する第一世代のナイトレート・コピーから直接複製するようにした。この方法を採ったのは、まずよりすぐれた画像的な質を得るためだった。これまでのどのヴァージョンよりもすぐれた画面は、これまでの数十年間で初めて、カメラマンのカール・フロイントとギュンター・リッタウの仕事の素晴らしさを大きく強調することになるだろう。もう一つの理由は、技術的なものではなく本質的に文献学的なものだ。今回の作業の過程で、私たちは1934年にウーファのアーカイヴが所持していたネガは最良の質のものではなかったという結論に達した。そこから、FIAF版とミュンヘン映画博物館版が復元の基礎とした30年代に複製されたMoMAのデュープネガも含め、このネガから作られたプリントは考えられているよりも価値の低いものであるという結論がだされた。MoMA版とパラマウントのアメリカ配給版を直接比較してわかったのは、ウーファのネガでは撮影時のオリジナルネガではなく、デュープネガで編集が行われているということだった。またコンティニュイティに欠ける部分や、パラマウントのアメリカ配給版に比べ俳優の演技が劣る部分も見られた。これらのことから、私たちはこのオリジナルネガはおそらくドイツ版のネガではない(修正された版でさえもない)と考えるようになった。そうではなく、これはおそらく最初の短縮版が使い古されたあとに組み合わせて作られた代用ヴァージョンなのだ。オリジナルネガは最もよいショットから組み合わせて作られたため、代用ヴァージョンは最初使用されなかったショットの集合体になった。さらに、対応するテイクがない部分ではコピーが使用された。一方で、早くも1926年の終わりにはベルリンを発ち、アメリカで短縮され再編集されたパラマウントのアメリカ配給版に含まれるショットが、ほぼ確実にラング自身によって選ばれたものだということもあった。自社の最も費用のかかった重要な映画を巨大なアメリカ市場に紹介するためのヴァージョンに、ウーファが悪いマテリアルを使用したというのはありそうにないことだ。
しかしながら、この新しい方法を採用するということは、映画をもう一度再構成する際に、ゼロからの再編集を行わなければならないことを意味していた。このように多様で部分によっては対立的でさえあるマテリアルを編集し組み立てる作業につきものの困難は避けがたいものだった。今回私たちに可能だったのも、オリジナルの『メトロポリス』を作ることではなく、様々なネガからの断片の合成版を作ることだけだった。
『メトロポリス』の新版制作は、技術的にも新しい水準に及んだものになった。写真工学的にデュープネガを制作するかわりに、保存されているナイトレート・フィルムを詳細に調べ、コンピューターを使い2K解像度*1でデジタル処理した。この方法は、従来行われてきた方法にくらべて、傷、汚れた領域、表面の摩滅、それに壊れた領域を修正していく場合はもちろんのこと、全く別の画像的質を持った様々なソースから断片を組み合わせる場合に、より正確に処理することを可能にしてくれた。こうした調査と復元の仕事はアルファ・オメガ(ミュンヘン)が、フィルムへの焼き付けはサントリマージュ(パリ)が、配給用のプリント制作はブンデスアルヒーフ=フィルムアルヒーフが行った。2K解像度は20年代からのオリジナルネガを保存するのに果たして十分かという議論が起こるかもしれない。ただし、2K解像度での復元が行われる以前に、今回用いられることになったマテリアルは全て保護の手段として35mmフィルムにコピーされたということに言及しておくべきだろう。このデュープポジとデュープネガは今回の版と同じように編集されてはいない。もとの段階に戻って復元をやり直す必要があり、デジタル・データとオリジナルのナイトレート・フィルムが使用できなくなっている場合、このフィルムは未来の介入の際の利用可能なソースになることだろう。また現在、新しい映画の撮影後のデジタル処理は2K解像度でなされていることも指摘されるべきだろう。
最終的に、復元結果のデータがフィルムに焼きつけられた。この「デジタル」デュープネガは、以前のデュープネガに対する決定的な利点を持っている。プリント用のネガを所有しない限り複製を数世代重ねるしかないという従来の方法において予想されたダメージが、ほとんどないのだ。したがって、「デジタル・ネガ」から作られたコピーは、1927年に作られたばかりのネガからのポジととても近い質を得ることができた。
『メトロポリス』復元への最終章がこれで完結したのかどうかは、いずれわかることだろう。ただし、現存する要素から引きだせる限りでは、今回のフィルムの写真的な質と編集の構造が最適なものだったことは確かだ。より完璧に近いナイトレートのプリントかネガがみつかるまでは、今回の復元は決定版だと考えてもいいと思う。こうしたフィルムは、世界のどこかのアーカイヴや個人収集家のもとでみつかるかもしれない。そうしたありそうもない状況を除くとしても、私たちは現在、生き残り、損なわれはしたけれども、可能な限り本物に近づけられた『メトロポリス』の美しさを楽しむことができるのだ。
F.W.ムルナウ財団、ブンデスアルヒーフ=フィルムアルヒーフそれにミュンヘン映画博物館は新しいヴァージョンのために情報とマテリアルを提供してくれた。また同様に、この試みを完成させるまでの3年間、調査中のわたしに協力し質問に忍耐強く答えてくれた。これらのアーカイブや組織でこの復元に協力した全てのひとに心から感謝したい。
- [原]解像度2000ピクセルのこと。2K解像度で35mmフィルムとあまり見劣りがしないデジタル処理が可能になる。現在、2K解像度の処理がデジタルによる映画撮影・映画復元で実用化されている。35mmフィルムにはもう少し高い解像度の処理が最適だと考えられるが、予算的理由等からその実用化には至っていない。 [back]
